台湾で丸一日過ごせる最後の日。今日の台湾グルメは豬肉漢堡(トンカツハンバーガー)と飯糰(台湾おにぎり)。朝から暑い。ホテル近くの食堂を往復するだけでじっとりと汗をかく。今日も暑い一日になりそうだ。
タクシーで、国立故宮博物院へ。やはり台湾に来たら絶対、あれを見ておかなければ。話し好きの運ちゃんで、「あれが台北101です」 ……まあ見ればわかるわなあ……、「あれは圓山大飯店The Grand Hotelで……」 ……まあそれも見ればわかるわなあ…… 「……ホテルが龍の頭で、陽明山が、横たわる龍の体になっています」 ……それは見ないとわからないなあ、さすが国賓級、そこまで考えて作られているのか。
国立故宮博物院に到着。思っていたよりも、こぢんまりとした建物。それでも蒋介石が“都落ち”した時にぶんどってきた中国4,000年の至宝は見応え十分な物ばかり。随時展示替えを行っているらしいが、全部を見るには何十年もかかるらしい。荷物を預け、日本語音声ガイドを借りて、いざ、館内へ。
まずはなんと言っても、翠玉白菜。白と緑の翡翠(ヒスイ)を彫刻して本物そっくりに作った白菜。なぜ翡翠で白菜?しかもイナゴ付き?。つっこみどころは色々あるが、まあこれなら世界に二つと無いと言い切れるだろう。なんだかんだ言って、ガラスケースに入った、古くなった食品サンプルのような白菜を眺め続けた。
そして翠玉白菜が東の横綱とすれば西の横綱はこちら、肉形石。天然の鉱物(石)に職人が手を加えて作り上げた豚の角煮だ。河原で拾った石が角煮に似ていたのなら面白いが、わざわざ石を染めて、毛穴まで彫り込んで加工するところが馬鹿馬鹿しくて好きだ。
一番素晴らしかったのは、象牙多層球。手毬ほどの大きさの象牙で出来た球体だが、貼り合わせたわけでもないのに球体が21もの層になっていて、それぞれの層は自由にずらす事ができる。そして、各層には見事な透かし彫りが施されている。現代の職人では再現不可能とも言われているが、現代の職人には「そんな暇はない」というのが正解だろう。一生を賭けて、時には数代の時間を掛けて作り上げられた芸術の数々が、ここには溢れている。一つの作品の為に職人を生涯養ってくれるスポンサーなど現代には存在しない。
博物館を後にし、バスで士林駅へ。駅前の食堂で昼飯。蝦丸湯(えびのスープ)、青菜湯(空芯菜のスープ)、雞腿飯(鳥から揚げ飯)、なんとか意麵(細くて平たい台湾麺、汁無し)。咕咕雞(KuKu-G)という名前のこのチェーン店は、セットメニューでも100元程度で食べられる。
台北捷運(MRT)士林駅に入ると、雷を伴う豪雨が。運行情報の電光掲示板を見ると、貓空纜車(猫空ロープウェイ)は運行を停止しているらしい。これが最近は日本でも増えている、亜熱帯の集中豪雨か、午前中は良い天気だったのに、短時間で様変わり。
午後の目的は、新北投。淡水線北投駅で、一駅だけの新北投線に乗り換える。到着した頃にはだいぶ小降りになったが、まだ雨は続いている。新北投は、台湾三大温泉の一つ。ラジウムを含む石、北投石で有名な温泉の街で、駅前の公園沿いから山に向かって温泉ホテルが何軒も連なっている。台湾には公衆浴場や露天風呂はあまり無いようだが、ここら辺りのホテルでは時間貸しの貸切温泉風呂を提供している。何処という予定は無かったが、雨も降っているので駅から近い水美溫泉會館(水美温泉会館)SweetMe Hotspring Resortで台湾温泉体験をすることにした。
フロントも館内も普通のホテルだが、案内されたのは風呂しかない部屋。脱衣コーナーと、普通の浴槽、水風呂用の浴槽、洗い場。普通のホテルの部屋を昼間だけ時間貸しするのかと思っていたら、貸温泉専用の部屋が用意されているとは驚き。蛇口をひねると硫黄のにおいがする水……温まるまでかなり時間がかかった……が出てくる。これって一応、源泉掛け流しの湯ってこと?
ホテルを出ると、雨は上がっていた。温泉の後は、やはりお茶で一服、お目当ての茶藝館(茶芸館)、翡翠軒茶房へ。直線ではたいした距離には思えなかったので歩いて行く事にしたら、これが大失敗。曲がりくねった道を山の上に向かって歩いていると汗が噴き出してくる。せっかく温泉に入ったのが全く無駄になってしまった。息絶え絶えで、高台にある茶芸館に到着。「スイマセーン」、引き戸を開けて恐る恐る声をかけると、受付にいた男の子から「イラッシャイマセ」、と日本語で返事が。安心したが次の言葉に驚いた。「あのう……、僕、日本人です」。
お金を貯めては台湾に来ていると言うその青年に案内された窓際の席からは、北投の町が見下ろせる。1920年代に建てられた日本建築で、かつてはホテル、そして軍(特攻隊)の接待所として使われていた建物は畳敷き。烏龍茶と、茶梅を注文。九份の芋仔蕃薯と同じセット。ここはお茶セットを置いていかれるだけでセルフサービス……まあ観光コースではないので普通か……だが、“予習”のおかげで、なんとか格好が付く感じでお茶を楽しむ。疲れた体に甘い梅が心地よい。
それにしても、ここに集った若者達(特攻隊員)は何を語ったのか。今の日本ではなかなか目にすることの無くなった戦争遺産が、花蓮でもここでも大事に使われている。おかげでゆっくりとお茶を飲みながら、日本の近代史について、とりわけ日本と台湾の関係について思いを巡らすことが出来る。ちなみにこの場所は、日本敗戦後には張学良の軟禁場所となったそうだ。日本により運命を翻弄された人物は、この日本式家屋で晩年を過ごし、何を考えたのだろうか。
汗が引いたところで、バスに乗り新北投駅に戻る。帰りは下りなので歩いても良いが、ホテルが建ち並ぶばかりでそれほど見る物は無いのでお薦めしません。そのままMRTを乗り継ぎホテルに戻り小休止、夜の部に備えちょっと仮眠。
午後7時、改めて夜の街へ。MRTに乗り向かった先は、雙城街夜市に程近い所にある台北戯棚 TAIPEI EYE、ここで中国伝統芸能の京劇を鑑賞できる。日本からも簡単に予約できるとあってか……ひょっとしたら地元よりも日本向けに展開しているのかも知れない……エントランスにたむろしている客の半数以上は日本人。黒服のスタッフは皆、日本語が堪能だ。開場時間となり、エレベーターで劇場へ。ドアが開くと、そこはもう夢の世界。小道具が並べられ、獅子舞が踊り、一角では出演者が今まさに京劇メイクをしている最中だ。
布袋戲人形で遊んだり、ばっちりメイクの役者さんと記念撮影したり、獅子舞につつかれたりしているうちに開演時間。第一部は、太鼓と獅子舞の競演だ。舞台横には日本語解説のスクリーンが用意されているため場面展開に問題なくついて行ける。力強い太鼓の演舞から始まるが、舞台手前に獅子舞曲芸用の足場が並べられているためちょっと見づらいのが残念。そのうち獅子舞が登場し、段違いの足場を飛び移る、はらはらどきどき、おきまりの芸が披露される。最後には口から飴をばらまいてめでたく終了。
休憩を挟んでの第二部は、いよいよ京劇。いったいどういう組織で運営されているのか最後までわからなかったが、最初に「国立台湾戯曲学院京劇団」と映し出されたので、どうやら演じているのは学生さんらしい。時間が短い事もあってか、有って無いようなストーリー……布袋戲と一緒だな……だが、京劇独特の節回しと身のこなしにいつしか引き込まれていく。宙を舞う剣をまるでお手玉のように自在に操る様に拍手喝采。2部合わせて1時間半ほどのステージだが、夜のひととき、話の種以上に楽しめるので、お薦めです。
晩飯は雙城街夜市へ。ここは規模が小さく、夜市と言うよりも小さな神社の縁日と言った感じ。それでも各種屋台が軒を連ね、台湾グルメを堪能できる。歩いているだけで楽しい。海鮮粥と、あ、台南名物の肉圓だ、これは食べておかないと。肉圓は、油の中から透明な固まりを掬い出し、さらに切れ目を入れて中の水分を絞り出し、よくわからないタレをかけて完成。もちもちとした食感が半分デザートのようで面白い。注文を受けてから鍋で煮込み作る粥は、熱々の雑炊のような感じ。台湾8日目、最後の夜も、B級グルメ満喫でした。
06/27 end
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