3時10分起床。ご来光ツアーに合わせて身支度を始める。ちょっと外を散歩。気温15度、涼しさを通り越して少し肌寒い。駐車場や駅の周辺では、おでんや肉まんのような物を売る、自動車屋台が既に店を開いている。そして防寒具を売っている屋台も。デザインにこだわらなければ、もしくは使い捨てにするつもりならば、防寒着は現地調達可能なようだ。
4時過ぎ、ロビーに集合。ここのホテルからの参加者は10人程度のようだ。ぼうっと待っていると妻が、「なんか、呼ばれてるみたいだけど……」と、袖を引っ張る。従業員の会話に耳をすますと「イーイーアール、(が、どうのこうの)」。イーイーアール?、イーアールサンスーウーロンチャ=1234烏龍茶、って事はイーイーアール=112。泊まった部屋は112号室。どうやら112号室の参加者(つまり我々)を探していたらしい。「すんません、私です」と、ルームキーを差し出す。英会話では負けないつもりだが、中国語会話では妻に負けてしまった。
10人乗り程度のワゴン車に分乗し……付近のホテルから相乗り……ツアー出発。山道を徐々に登っていく。時々停まって景色を案内してくれるが、台湾語なので全くわからない。途中トイレ休憩を挟み、5時過ぎ、広場に到着。今日の日の出は5時20分(ホテルのフロントに掲示されていた)だから、ここで待つのかな。広場には既に枯れた巨木が2本立っている。看板を見ると「夫婦樹」だそうだ。黒からブルーへと移り始めた空をバックに立つ姿は神々しい。
暫くすると、またみんな車に戻っていく。え、ここじゃないの?。この運ちゃん、台湾に来てから体験した中では最高に丁寧な運転で、それはかまわないけど、はたして間に合うのか?、もうだいぶ明るくなってきている。5時20分、たくさんの車が路上駐車しているポイントに到着。今度こそ、ご来光ポイントらしい。
一体何処から太陽が昇ってくるのか?よくわからないまま、時間が過ぎてゆく。もうすっかり空は明るくなった。どうやら今日は“不発”だったらしい。6時前、引き上げ。帰り道、玉山國家公園YU-SHAN NATIONAL PARKのモニュメントが。え、ここは玉山公園?ひょっとして、晴れていれば玉山……かつての日本一高い山……の姿が見られたのだろうか。
なんだか人だかりが出来ているところでまた一時停止。土産物を売る屋台が出ていて、威勢の良い声が響いている。なんだお土産休憩か、と思ったら看板があり、「鹿林神木」の文字。どうやら遊歩道の下にあるらしい。少し下ると、遠くからもその威容が見て取れる巨木が。おいおい、これは凄いことになってるぞ。近付くにつれ、その尋常ではない姿の全容が見えてくる。いや逆に全容がひと目では収めきれなくなる。屋久島の紀元杉を見た時の……それはそれで凄かったが……何倍もの重圧感。そしてこの鹿林神木が凄いのは、今でも生命感に溢れていることだ。急斜面に直立し、この森全体を従えている。
看板の説明によるとこの紅檜は、樹齢2,700年、樹高43メートル、幹周20メートル、台湾第2の……これよりでかい木があるの?……神木らしい。帰宅してから確認してみると、樹高、幹周とも屋久島の縄文杉を上回る堂々たるものだ。奮起湖のホタルが見られなかったのは残念だったが、台湾の森の奥深さを感じることができ、これはこれで良かったのかも。塞翁が馬ってやつね。
ホテルに戻り、解散。朝食を食べに土産物街へ。朝から客引きがすさまじい、商売人はいつも元気だ。羅葡糕(大根餅)、魚丸湯(魚のすり身団子スープ)、饅頭(餡は入っていません)、そして豆漿をいただく。大根餅は、大根をすり潰して他の具材を混ぜ、コンニャク状に成形したもので、既に味も食感も大根からかなり遠くなっている。まあ、もちもちの食感が楽しめる。
ホテルをチェックアウト。よくわからないまま泊まったが、ここのホテルの名前は美麗亜山荘、英語読みではマリアホテル。費用対効果でまったく申し分のないホテルでした。さて、今日はなんとしても奮起湖に行って、少なくとも名物の駅弁を食べなければならない。バスの時間を確認しにセブンイレブンに向かうと客引きが寄ってくる。筆談により理解したところによると、「嘉義駅までバスより1時間早く行くよ。1人250元でどうだい?」と言うことらしい。試しに「奮起湖に行きたい」と伝えると、1人200元で行ってくれることになった。
9時出発。運ちゃんの営業努力が実を結び、ワゴンは満席。「バスより1時間早い」と豪語するだけのことはある軽快なドライブで、40分で奮起湖に到着。目指すは奮起湖大飯店、坂を下るとすぐに見つかった。煉瓦造りのしゃれた外観に、なんとセブンイレブンがテナントとして一体化している。そして怪しい老人の写真と共にでかでかと掲げられたポスターが、目指す鐵路便當(駅弁)、奮起湖大飯店の、元祖奮起湖便當(奮起湖弁当)だ。
昼飯には時間が早いので、奮起湖老街を散策。狭い通りに商店が軒を連ね、屋台のような食堂や、山菜(特に山葵(わさび)、台湾語でも“ワサビ”です)を売る店、“汽車餅”等の土産物系お菓子を売る店等、九份(九分)の老街にはさすがに及ばないが、山間の田舎町とは思えない賑わい。
中に「台灣の寒天、野生愛玉」の看板を出す店が幾つか。奮起湖名物、愛玉子(オーギョーチ)のデザートだ。さっそく老街の外れにあった愛山屋で食することに。パスタ鍋のような巨大な円柱形の容器にいっぱい、オレンジ色のゼリーのような物、愛玉の固まりが作られている。これをオタマですくい、カップに取り分け、シロップをかけて提供される。出来たて、“野生”の愛玉は、ぷるぷるつるん、と喉ごし爽やか。
老街の次は、駅の施設を散策。平日は1日1往復しか列車は来ないので、なめきった観光客は、線路だろうが、車庫だろうが、自由に歩き回っている。車庫には昔使っていた蒸気機関車が残されている。奮起湖監工區Fenchifu Railway Maintenance Sectionの事務所に行くと、宏都阿里山國際開發股份有限公司と書かた白い紙が、セロテープで貼られている。林務局(日本で言うところの農林水産省?)の経営だった物が、この会社に移管されたと言うことだろうか。
さて、そろそろ奮起湖弁当を買いに行くか。奮起湖大飯店の店内は、綺麗にまとめられていて、従業員の対応も良い。ただし日本語不可。実は、昨日はここに泊まる予定だったのだが、見た感じなかなか良さそうなので、ちょっと残念。弁当は基本的に1種類、100元。これにオプションで台湾駅弁伝統のアルミ容器入りと、50周年記念木箱入りがあり、容器代がプラスされる。もちろん、狙いはアルミ容器、自分へのお土産で是非持って帰ろうと企んでいた物だ。って、事で、アルミ容器で注文。注文を受けてから作るので、暫く待つと、ほかほかの弁当が出てきた。
弁当もゲットしたし、帰るとするか。バス乗り場に、時刻を確認に行く。上手くいけば、帰りの新幹線の車内で弁当かな。で、次の便は……え、阿里山行きのみ?、平日は1日2便?、次は夕方?。これじゃ吉幾三「俺ら東京さ行ぐだ」の世界だ。しかも嘉義には戻れない。そしてタクシーは1台も見あたらない。朝から観光客らしき人の動きはあるのだが、皆自家用車で移動しているのだろうか。日本のガイドブックにも載っている観光地なのに、交通手段が全くないとは予想できなかった。
結局最短で嘉義に戻るには、3キロ下った石棹まで徒歩で戻り、そこから阿里山発、嘉義行きのバスに乗ること。しかし高所とは言え、昼が近付くにつれ、じりじりと暑さが増してきている。“家族会議”……2人だけど……の結果、下りの列車を待つことにした。これだと14時40分発、17時には嘉義に到着する。窓口に行き、切符を買う。お金を払おうとすると、突き返された。どうやら経営者交代記念無料キャンペーンがまだ続いているらしい。タダで嘉義まで乗せてくれるようだ。これも塞翁が馬、って事かな。
時刻は11時。やることもなくなり、のどかな時間が過ぎるのを待つ。駅の待合室を陣取り、読書の時間。今回のお供は石田衣良「ブルータワー」。青春群像(<−表現が古い?)が得意の作家だが、今回はSF。時々山から吹き下ろしてくる霧が周囲を包み、一瞬空気が冷える。
11時半になり、待ちきれず、弁当を食べることに。そのまま待合室で食べ始める。たっぷりと敷き詰められたご飯の上に、少量の付け合わせと、後は煮卵がどーん、骨付きの煮鳥がどどーん、上から見ると茶色弁当。味の基本は台湾料理得意の八角。この香辛料が苦手な人は無理かも(そもそも台湾が無理かも)。コンビニで駅弁特集が組まれるほど台湾も駅弁ブーム。この奮起湖弁当も、奮起湖大飯店プロデュースの製品がセブンイレブンで売られている。しかし暖かさが残る元祖弁当を食べる幸せ。しかもアルミの弁当箱で食べる幸せ。贅沢な旅行体験だ。
土産物屋を冷やかしたり、再び愛玉を食べたり、パクチー入りのアイスを食べたり……パクチーとアイスは合わないと思う……、台湾ローカルフード(食品)と風土をのんびりと味わう。観光バスで来る客も多いみたいで、時折一団が現れては去っていく。
下り列車の時間になり、ホームで待機。観光客なのか、乗客なのか、結構ホームは混雑している。やがてカーブの向こうからディーゼル機関車が現れる。この瞬間だけ、往時の賑わいが戻ったようだ。停車すると、我先にと乗り込む乗客……結構乗り降りあるのね……、席取りに失敗し、嘉義までの2時間、立つことになってしまった。ちなみに昨日もそうだったが、ホームに弁当売りは出なかった。待合所のすぐ横にも“なんちゃって奮起湖弁当”(本家以外はこう命名)を売っている店があるが、短時間の停車なので、買い出しに行くことは難しいだろう。ツアーを利用せず立ち寄りたい場合は、土曜日に阿里山に上がり、バス便の多い日曜日(1日5便)に奮起湖を目指してください。
支柱に掴まって揺れをやり過ごしながら、窓に食いつき風景を眺める。座っている乗客はお疲れのようで、ほとんど居眠り。列車がすれ違う交力坪では、開いたドアから身を乗り出し、“かぶりつき”状態で作業を見守る。立っているのは楽ではないが、座っていては味わえない楽しみ。
嘉義站(嘉義駅)Chiayiに到着。高鉄のシャトルバスを待っていると、おばさんが話しかけてくる。筆談によると「高鉄まで1人100元で、一緒にタクシーに乗らない?」との事。どうやらここの白タク料金は300元らしい。「2人で100元ならいいよ」と答えると交渉決裂、おばさんはバス待ちの他の客に声をかける。しかし他の客がつかまらない、かつ、どうしても急いでいた、かつ、それでもタクシー代300元は払いたくないようで、結局「2人100元」で相乗りすることになった。
タクシーは、半ば信号無視を繰り返しながら高鉄に向けて疾走。「ほら、時間がないのよ」と高鉄の切符を我々に見せるおばさん。到着間際、100元を渡すと「私は200元だから」と強調されてしまった。んーー、いい人そうだし、200元払ったげても、良かったかな。
18時12分発の台北站(台北駅)Taipei行きの切符を確保。夕飯は、モスバーガーを買って車内で食べることに。今のお薦めは、「双醤章魚堡 たこカツバーガー」。なぜか日本語でも書いてある。個々のメニューには全く日本語が使われていないところからすると、別に日本人へのサービスというわけではなさそうだ。これって、日本人が「英語で書いてあるとなんかカッコイイ」っていうのと同じ感覚なのだろうか。資生堂のテレビコマーシャルは日本語のまま放映しているし、「日本発」や「日本基準」を前面に押し出した広告も多い。それだけ日本に親しみを持っていてくれてるわけで、ありがたい話だ。
帰りの新幹線は、標準車廂(普通席)。さすがにコーヒーのサービスは無い。暮れゆく車窓を眺めながら、初めてのたこカツバーガーは……これも日本には無い台湾食?……歯ごたえぷりぷりで、美味かった。色々あって、塞翁が馬な、4日目終了。
06/23 end
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