昨日からの雨は朝になっても降り続いている。ローカルテレビの文字放送で、
チャーチルChurchillの現在の気温がわかるのだが、それによると5度。午前中はシーカヤックの予定だが、やる気を無くさせるには十分な温度と天気だ。朝ご飯は、リビングに置いてあるマフィン、食パン、ジャム、マーガリン、リンゴ、コーヒーメーカー、紅茶、牛乳、湯沸かし器、トースターを使い、セルフサービス……あれ、昨日も言ったか。
出発時間の8時になると、何とか雨は上がった。参加者は我々だけ、昨日と同じくウォリー&ダグラス・コンビのバンで川へ、程なくして到着。浜辺に輸送用コンテナが
放置されて設置されていて、中に機材が置かれている。ウエットスーツを渡される。屋久島でリバーカヤックを体験した時は普通の服だったが、割と暖かい時期だったので、“沈”してもいいかな、って感じだった。が、チャーチルで水没したら……あまり考えたくない。それで服装をどうするかが最大の問題だったが、このウエットスーツをどうすればいいんだ?。正解かどうかわからないが、下半身は下着だけ、上半身は何枚か重ね着した上にウエットスーツを着る。そしてさらにジャケットを羽織る。まあ、いいだろう。
「カヤックの経験は?」「以前、リバーカヤックを少々……」「 Very good. No problem. (じゃあ問題なし)」。って事で、漕ぎ方については特に指導無し。後はシーカヤックの特徴であるラダー(舵)について説明を受け、準備は終了。2人乗りのカヤック(1人乗りx2も選べます)に乗り、いきなり本番、川へと漕ぎ出す。ダグラスはバンに乗って一旦戻り、ここからはウォリーの乗るカヤックに、1対1で付き従うことになる。
昨日のボートツアーでは結構波があったように感じられたので、最初は少し身構えていたが、5分もすれば慣れてしまい、緊張も解けた。体も温まり、寒さも気にならない。あっという間に岸から遠ざかり、川の真ん中へ。暫くすると、ぷしゅー、ぷしゅー、と、背後からなにやら怪しげな音が。振り返ると5〜6頭のベルーガ集団が、漁船に迫るジョーズのようにカヤックを追走している。そして次第に近付いてきて、追走から併走へと変わる。自分の船を中心として、野生のクジラを従えての散歩。エキサイティングとしか言いようがない、感動の瞬間だ。
「後ろ向きに漕いでごらん」。ウォリーが叫んでいる。船をバックさせるように、後ろから前にオールを動かす。すると追走してくるベルーガの様子がよくわかる。前に座って、さっきから見てるだけの……おいおい、もう少し頑張って漕げよ……妻は大喜び。ちなみにバックの時はラダーがほとんど効かなくなるので、どっちに向いて進むかは波任せ。シーカヤックの操作も結構面白い。
ベルーガも慣れてきたのか、接近度合いもどんどん増し、時々ぶつかってくるやつも居る。ごん、と船底に衝撃が来る。おいおい、おまえらの方が巨体なんだから、ほどほどにしてくれよ。膝の下を右に左に、白い巨体が通る度に、オールをあげ、ぶつけないように気を遣う。
はい右、今度は左……。忙しくベルーガを追いかける目線の先に、小さな感動を見つけることになる。10メートル程度離れて併走していた白い巨体の脇に、ちっちゃなベルーガの赤ちゃんが居た。「 Oh!!! This years baby!!! (今年生まれた赤ちゃんだね)」。慣れているはずのウォリーも声を上げる。灰色をした他の子供達よりも、より濃い色をしていて、ゴマフアザラシのように少し斑点がかっている。
たっぷり3時間、時折小雨が降る中漕ぎまくり、終了。出発地点の浜辺に戻るまでの間、1匹のベルーガが浅瀬になるギリギリまで併走していた。さようなら、ありがとう。
ロッジに戻り、熱いシャワーを浴びる。体はそれほどでもないが、足は芯まで冷え切っている感じ。浴槽にためた少し熱めのお湯に足を浸けると、じんじんと熱が伝わってくる。暫くゆっくりしていたいが、午後の予定があるので昼飯を食べに出かける。チャーチルで唯一の……まあ2軒も必要ないと思うが……パン屋さん
Gypsy's Bakeryへ。世界のバックパッカー御用達、
ロンリー・プラネットLonely Planetに、“
food is ...mmm... good.”と紹介されていた店だ。
掲示板に書かれたメニューの他に、ショーケースの中にサンドイッチやケーキが並んでいる。あまり時間がないので、出来合いのタマゴサンドとスープを注文。実はロッジで食べているパンはここのなので、結構美味しいことは確認済みだ。ちょっともっちりとした日本人好みのパンで、タマゴサンドもしっとり美味い。
13時、ロビー集合。南アフリカの夫婦と、今日は地元の女の子が1人。そしてウォリー&ダグラス・コンビのナビゲーションで、チャーチル歴史ツアーに出発。まずは、
メリー岬砲台Cape Merry Battery(跡)へ。チャーチル河口に突き出た岬で、昨日行った
プリンス・オブ・ウェールズ砦Prince of Wales Fortの対岸にあたり、両岸から侵入者に備えていた。今日もウォリーの講釈がさえ渡り、時折小雨が降る中、寒風に耐える。この辺りは昨日にも増して、ベリー類が豊富だ。秋には手を紫に染めて収穫するそうだ。
メリー岬の後は、チャーチル郊外を巡る。時々車を止めて解説が入るが、午前中の疲れから、さすがに眠い。遠くから見下ろすハドソン川には、ベルーガが潮を噴き上げているのが見える。空港近くの高台にはシロクマの収容施設
Polar Bear Compoundがあり、ネズミ取りを巨大にした“シロクマ取り”が並んでいた。
チャーチル最後の晩飯は、ロッジのカフェで。“French Canadian Arctic Char”(ハドソン湾産の天然北極イワナ……実は“Char”がなんなのかわからず「魚か?肉か?ハドソン湾産の肉ってあるのか?」悩みながら注文していた)と“Fillet of Cod”(タラの切り身、蜂蜜とバターグリル)。北極イワナは凝った味付けではないが、極北の町で食べる素朴な味が嬉しく、付け合わせのカナダ特産ワイルドライスと共に美味しくいただいた。
部屋に戻り、出発の準備。さあ、明日はこの町ともお別れだ。