今日も良い天気だ。日本では七夕だが、もちろんそんな行事はカナダには無い。朝食を食べに1階に降りる(ここのホテルは料金に朝食込み)。ビュッフェ形式のフル・ブレックファースト。だがコーヒーだけは意地でもいれたてにこだわりたいようで、スタッフが顧客の要望に応じて持ってくる。西海岸ではエスプレッソが流行だが、こちらは至って普通の……美味しい……コーヒー。あとオムレツやハムエッグ等、“あったかい系”の料理は、シェフがその場で作ってくれるコーナーがある。これって楽しいけど注文の仕方がよくわからないので「今作っているのと同じのを下さい」って事に大抵はなってしまう。野菜たっぷりのオムレツを注文。こちらに来て初めてホテルらしい朝食に大満足。
空港へ向けて出発。お、今日のタクシーはプリウスPriusだ。なにか優遇策でもあるのか、カナダのタクシーにはハイブリッドカー = プリウスが多い。ハイブリッドカーにしたからと言って、劇的に燃費が改善されるわけではないが、日本の自治体でもタクシー会社が導入しやすい環境を作れないだろうか。
午前10時、今日も余裕の空港入り、さっさとチェックインを済ませてまったり過ごそうぜぃ。しかしカーム航空Calm Airのカウンターには誰も居ない。「○○便の受付は、13時からです」と書かれたボードが寂しく置かれている。カナダのような広大な国土を持ち、かつ、人口密度の低い国では、飛行機でないと行けない町が内陸部各地に点在している。カーム航空は、ウィニペグWinnipeg(YWG)を拠点にマニトバ州Manitoba内を主に結ぶローカル航空会社で、ハドソン湾Hudson Bay沿岸のエスキモーが暮らす町を点々と結んでいる。そんなわけで、拠点空港と言っても便数は数えるほどだ。忙しそうなエアー・カナダのカウンターを横目に、カーム航空に一番近いベンチを陣取りじっと待つ。
ちなみにカーム航空の航空券は日本の旅行代理店でも入手可能だが、問い合わせてみたところ“定価”(日本からウィニペグまでの航空券よりも高い)でしか購入できない。そこで多少は割引のあるホームページから予約してみたが、帰ってきた返事はEチケットどころかEメールだけ。予約番号だけが頼り。カウンターが開くと速攻で並び、チャーチルChurchill(YYQ)行きの搭乗券を無事ゲット。これでやっとくつろげる。ファーストフードの様な店で、チキンサラダとホットドッグを購入。これから向かう町では野菜が入手できるのかどうかわからないので、ここでしっかりと食べておく。
搭乗時間となり、小さなターボプロップ(プロペラ)機SAAB340Bに乗り込む。自由席だったので一番後ろに座っていたら、「離陸の間は前に座って下さい」とキャビンアテンダントの指示が。小さな飛行機なので、重量バランスが問題になるようだ。席を移動して待っていると、程なくして離陸。15時少し前、今日は予定どおりだ。
眼下には、相変わらずマニトバの大平原、緑の大地が何処までも続いている。チャーチルまでは3時間弱、日本から持ってきた本で読書の時間、須川邦彦著「無人島に生きる十六人」。明治時代にハワイ近海で遭難した日本漁船の実話を元にした、気持ちの良い作品だ。集中して読んでいるうちに、飛行機は降下を始める。眼下の景色は様変わりしていた。まばらに生えた木、点在する湖、白い岩がむき出しの大地、ハドソン湾低地Hudson Bay Lowlandsと呼ばれる世界最大の湿地帯が広がっている。17時30分、予定どおりの順調な飛行で、小さな飛行場に降り立った。
「○$△&*□×%&(^^)……」
空港ロビーに入った途端、きれいなお姉さんに話しかけられる。どうやら宿のお迎えのようだ。助かった、メールでのやりとりでは送迎付きとは言っていなかったので自力で行くつもりだったのだが、人口1,000人のこの町でタクシーが呼べるのかどうかわからず、どうしようかと思っていたところだった。小さなバンで、もう一組、年配の夫婦を乗せて空港を出発。
10分もしないうちに宿に到着。ログハウスのオシャレな建物だ。ロビーで受け付け、「3泊の宿泊とツアー代金で、918ドルになります」。「はい、じゃあカードで………ん?」。実はこの段階で非常に違和感を感じたのだが、英語で説明できないのでとりあえず部屋に落ち着こう。部屋番号10、車道からは反対側を向いていて、線路と、目をこらせばチャーチル川Churchill Riverが見える。太さがまちまちの材木を見事に組み合わせた、手作り感のある落ち着いた部屋だ。椅子等の調度品もどうやら手作りのようだ。それはさておき……。
ベッドに座り、印刷してきたメールの内容を確認する。「……ツアー会社が○○で、宿の名前が△△……。で、(領収書を取り出し)ここの宿は、レイジー・ベア・ロッジLazy Bear Lodge & Cafe……、ん、
宿、違うじゃん」。
何でこんな事になったのか?。記憶を辿ってみると、そう言えばここのロッジ、チャーチル行きを決めて最初に申し込んだ宿だ。何度か質問のメールのやりとりをして……丁寧な回答だった……じゃあ申し込みます、って送った途端、返事が全く来なくなった。何度かメールを再送したけど返事が来ないので……普通confirmation(確認書)くれるでしょ……あきらめて違うところを予約してしまったのだ。
ちょっと思考が停止してしまったが、頭を再起動、どちらかをキャンセルしなければ。でももう払ってしまったし、部屋にも入ったし、キャンセルするなら△△の方だ。幸いにして小さな町なので、電話で説明するよりも直接行ってみよう。散歩を兼ねて“お詫び行脚”に出かける事にした。
レイジー・ベア・ロッジは、空港からだとチャーチルの町の入り口にある。宿の前はこの町のメインストリートKelsey Blvd.だが、人影は全く無い。宿でもらった地図を持って、まずはツアー会社の事務所を目指す。レイジー・ベア・ロッジは宿でツアーの受付も兼ねているが、最終的に予約していた所は別々だったので、宿とツアー会社、両方にキャンセルを伝えなければならない。
それにしても、寒い。5月のスコットランドよりも、9月のアラスカよりも寒い。これまで訪れた中で、最も寒い所であることは間違いない。7月だが、今日の気温は10度を超えていないだろう。冬場はマイナス数10度でブリザードが吹きすさぶが、プレハブのように見える質素な建物が多い。目指すツアー会社もそんな建物の一つだった。呼び鈴を押し、出てきた女性に「すいません、ちょっと予定が変わってしまって……ツアーをキャンセルします」。キャンセル料86ドルを払い、1件目、終了。
次は宿だ。目的の宿はレイジー・ベア・ロッジからは町の反対、最も港寄りの外れにあり、これでこの町のメインストリートは、端から端まで歩いたことになる。出てきた男性に「すいません、ちょっと予定が変わってしまって……宿泊をキャンセルします」「はあ、いいっスよ」。じゃあおまえは今何処に泊まっているんだ?、ってつっこまれたらどうしようかと思ったが、こちらはキャンセル料も無く無事終了。
宿に戻り、晩飯。メインストリートを歩いた限りでは、ここのロッジが一番良いように思う。キャンセル料が勿体なかったが、結果的には良かった。併設のカフェも木をふんだんに使ったおしゃれな作り。“Polar Caps”(まあ、チーズトーストのような感じの物)と“Caribou Pepper Steak”(おおぅ、フィンランド以来、7年ぶりのトナカイだ)を注文。他にも肉、魚、パスタと一通りの物はそろっている。ただし、アルコールは提供していませんので、必要な方はリカーショップで買ってきて下さい。
トナカイの肉の味……フィンランドを思い出した……はともかくとして、お腹いっぱいで部屋に戻る。木の香りのするバスルームで疲れをとり、ゆっくりと就寝。
07/07 end
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