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2006portugal 09/07
リスボンの朝

 クーラーが無いため窓を開けたまま寝た。幸いな事にこの町には虫が居ないようで、そこそこ快適に眠ることが出来た。朝食付きなので、レストランに行ってみる。朝食ねぇ……数種類のパンがあるだけ、おかず無し。それでもパン自体は美味しかった。しかしせっかく中心街に泊まっているので、近くのカフェに出かけてみるという手もありだろう。

 今日は飛行機で移動の予定だが、まだ時間があるのでチェックアウト前に町歩きに出てみた。サンタ・ジェスタのエレベーターに乗り、展望台部分からリスボンの街を見下ろす。向かいにはサン・ジョルジェ城Castelo de São Jorgeの城壁、眼下には白とレンガ色のリスボンの町並み。「魔女の宅急便」や「ハウルの動く城」のテーマを口ずさみたくなる。ちなみに宮崎駿氏はロケハンでヨーロッパ各地を訪れた時、リスボンにも滞在しています。

 丘を降り、テレビ番組ででチェックしておいた缶詰専門店(コンセルヴェイラ・デ・リスボアConserveira de Lisboa)へ。ポルトガルは魚大国。タコやアンコウ、ウナギなど、日本人が食べるものと変わらない食材を使った料理が沢山ある。また、「世界ウルルン滞在記」で高橋克実さんが缶詰作り修行?に訪れた事もあるほど、缶詰に関しては伝統もあり種類も豊富。レトロなたたずまいの店には、壁一面に缶詰が積まれていた。包装もレトロでポルトガル土産イチ押しです。

最果ての島へ

 10時、フロントに呼んでもらったタクシーで空港に向けて出発、20分後には到着。すぐにチェックイン(搭乗手続き)を済ませる。リスボン空港は、航空会社毎にチェックインカウンターが分かれているのは他の空港と一緒だが、テレビモニターに出発便一覧が表示され「○○便は○○番のカウンターで受付中です」と教えてくれる。成田空港のように「英国航空のカウンターは何処だ?何処だ?何処だあ?」と出発ロビーを端から端まで歩いて探さなくても「○○番のカウンター」を目指せば間違いなくたどり着ける。

 出発は午後なので昼食をとることにした。ポルトガル旅行の目的を占める大きな部分として、グルメツアーがある。空港内のレストランで、記念すべき初ポルトガル料理を発見。バカリャウのリゾット。バカリャウとは、干鱈(タラ)の事で、ポルトガルの代表的な食材。海が近いのだから釣ってきたらすぐに食べればいいじゃん、と思うのだが、なぜかわざわざ干した物を水で戻して料理に使う。場所が場所だけにあまり期待していなかったが、これがなかなかイケテル。また野菜スープも“空港のスープは不味い物だ”という法則を初めて破る美味しさ。グルメツアーとしては上々の出だしとなった。

 13時、ポルトガル航空Air Portugalで、大西洋の孤高の群島、アソーレス諸島(アゾレス諸島)Arguipélago dos Açoresへ向かう。リスボン空港を離陸し、海岸線を過ぎると後は何もない大西洋をひたすら西へ向かって飛行する。アソーレス諸島で3番目に大きな島(人口では2番目)、テルセイラ島Terceiraの空港までは約2時間半。ロンドンからリスボンまでの時間とほぼ同じだ。ユーラシアプレートの西の端に位置するこの島のことを知ったのは、あるテレビ番組だった。サウダーデの国ポルトガル、そしてこの最果ての島を訪れてみたいという思いがやっと現実の物となった。果たしてそこに何があるのか?何もないのか?

大航海時代の街

 アソーレス時間(ポルトガル本土とは1時間(遅れ)の時差がある)14時半、テルセイラ空港(TER)に到着。天候は晴れ。それほど暑くはない。ポルトガル本土もそうだがこの時期の気候は日本とほぼ同じ。宿のあるアングラ・ド・エロイズモAngra do Heroísmoへ向かう為にタクシーに乗って驚いた。なんとメーターが無い。ひょっとして白タク?ぼったくりし放題?……不安だが、つたない英語で話しかけてくる様子に好感が持てたので気にしないことに。

 北側の海岸線にある空港から南側の港町まで、島の中央を縦断する道を走る。道路の両側は、枯れかけてはいるがアジサイの花が何処までも続いている。もう少し早い時期であれば白や紫の花に埋め尽くされていた事だろう。アジサイの生け垣の向こうは石垣があり、石垣は牧草地や畑を一定の面積で四角く切り取りながら丘の向こうまで続いている。またそれぞれの丘はきれいな円錐形をしている物が多く、山頂が少し窪んでいる。小さい物では数10メートル規模のその丘は、一つ一つがかつての火山で、山頂の窪みはかつての噴火口。

 程なくして、白壁とレンガ色の屋根が美しい小さな街が見えてきた。ホテルTerceira Marに到着。アングラ・ド・エロイズモの街の中心部から西へ1キロ弱、大西洋を臨む(恐らく全室オーシャンビュー)近代的なリゾートホテルだ。窓からは、要塞Castle de São Felipe / São João Baptistaの跡が残るモンテ・ブラジルMonte Brasil(ブラジル山?)が近くに見える。昨日のホテルが“あれ”だっただけに、ポルトガルに来てやっと伸び伸びとした気分となれた。

 一休みし、街に出る。アングラ・ド・エロイズモは、アソーレス諸島が大航海時代に発見されて以降、ヨーロッパとアメリカ大陸の中継地として植民地からぶんどってきた富で栄えたが、ジェット機の時代となり役割を終える。1980年に起きた地震で壊滅的な被害を受けたが、18世紀の古い町並みをそのまま残す形で復興し、1983年に旧市街が世界文化遺産に登録された。土産物屋の店先にはアジサイの花をかたどった置物や、鯨の骨でできた彫り物が並べられている。テレビでは牛追い祭りのビデオが流れている。

 まずは教会Santíssimo Salvador da Sé Church。これまで幾つもの国を旅し、そのほとんどがキリスト教の国であったが、“これぞカトリックな正統派教会だ”と思える教会建築に初めて出会った。特に断り書きも無さそうなので勝手に中に入る。柔らかい光に包まれた石造りの柱と天井を支えるアーチが美しい。「ボストンのアソーレスコミュニティーが……(どうした、こうした)」と書かれた説明版があった。大航海時代、そして鯨漁で栄えた時代が過ぎると、一転してアソーレスは農業に適さない痩せた土地が残るのみとなる。そして多くの人々が新大陸アメリカへ移住し、そこで成功した人々によって、残されたアソーレス社会は支えられてきた。恐らくこの教会が現在まで維持できているのも、そうした人々の寄付によるものだろう。せっかく見学させてもらったのだから“拝観料”でも払おうかと思ったが、賽銭箱のような物が見あたらない。ま、いいか。

 カフェでおやつを買い、石畳の通りに置かれたベンチに腰掛けて休憩。歴史に取り残された街なので寂れているかと思ったが、観光客も多く結構活気がある。歴史と現代が交差するリスボンとは違い、本当に大航海時代を思わせる低層の家並みが美しい。しかし、今でこそ本土まで2時間そこそこだが、大航海時代にはどういう暮らしをしていたのだろうか。突然スペインの大船団が攻めてきたとしても(実際にあったかどうかは知らないが、ブラジル山の強固な砦を見るとそれなりの危機感はあったのだろう)自力で耐えなければならない。台風などの自然災害が起きてもすぐには援助は来ない。

キンタ・ド・マルテーロ

 ホテルに戻り、晩ご飯の相談。と、言ってもアソーレスに関する事前情報はほとんど無いため選択肢は限られる。数少ないアソーレスガイド、丹田いづみ「ポルトガル 小さな街物語」で紹介されていたキンタ・ド・マルテロQuinta do Marterloに行くことにした。フロントでタクシーを呼んでもらい、いざ出陣。山道をうねうねと走り、一軒の農家の前に到着。運転手はここだと言う。仕方がないので降りて戸を開けてみるが、きれいな庭は静まりかえっている。ひょっとして、定休日??、心配そうに見ていたタクシーの運ちゃんが「あっちじゃねぇかあ」と教えてくれたのは100メートルほど道を進んだ所。確かにあちらは人の気配がする。運ちゃん“オブリガードォ”、なんとか晩飯にありつけそうだ。

 建物の中は農家の納屋のようになっていて、古い農機具のような物が無造作に置かれている。誰も居ないのでどうしたものかとしばらくうろうろしていたら、やっと従業員に見つけられ、1階の奥まった席に案内された。5つほどのテーブルがあり、他に客は1組しか居ない。ただし2階は団体客のようで、喧噪が漏れ聞こえる。メニューを渡されたがよくわからないので丹田いづみさんにならい、本日のスープを1人前と、鶏のアルカトラ(これは1つで2人前)を注文。そしてお飲み物は地元アソーレス・ワイン。

 程なくして、山盛りの前菜と、陶器のポットに入れられたワインがやってきた。4種類の豆とオリーブが乗った皿(豆の名前を解説していたがもちろん覚えられない)、そしてフレッシュチーズとパン。地球の歩き方等のガイドブックによると、前菜やパンは断ってもいいらしいが(別料金です)、初めてのポルトガル式サービスなので食べてみることにした。

 まずはアソーレス・ワインを堪能。“甘いなあ、うめぇなこいつ”。ぶどうジュースがそのままお酒になった感じ?(ワイン通ではありませんので表現が陳腐ですんません)。オリーブや豆をつまみながらちびちびと飲む。チーズは豆腐のようにぷるぷるで、これまた旨い。おっとここで食べ過ぎるとメインまでたどり着けない。

 程なくしてスープが運ばれてきた。一人前のはずが、皿はきっちり2人分置かれ、ポットにたっぷりと入れて持ってこられた。まあ、気にせずいただきましょう(請求は1人前でした)。たっぷり野菜、こった味付けはないが素材の味が美味しい。ウエイターさんが5分おきにこちらの様子をうかがいに来て、まだ食べているのを確認すると去っていく。グラスのワインが無くなるとつぎにくる。一見無愛想な感じだがサービスが細やか。そして本日のメイン、鶏のアルカトラ。まあようするに鶏の土鍋煮込み。ホクホクの鶏を付け合わせのご飯と共にいただく。一緒に煮込まれているベーコンの出汁が染み込みこれまた旨い。食が進む、ワインが進む。

最果てのファド

 お腹いっぱい、デザートはあきらめコーヒーをいただく。もう一組の客はすでに居なくなり、1階は我々だけとなっていた。外からは鈴虫の音が聞こえてくる。静かな空間を楽しんでいると、2階からファドが聞こえてきた。ギターの音色と、女性2人の歌声……みずみずしいがどこか危うい娘の声と、年季の入った婦人の声、2人のかけ合いが素晴らしい……姿が見えないので古いラジオを通して聞いているようで、よりいっそう哀愁を感じさせる。ポルトガルに来たら、一度はどこかでファドを聴ければと思っていたが、西の外れ、大西洋の孤島で聞くことができるとは思ってもいなかった。虫の音色と、ファドの歌声に耳をすませる。静かな時間が、ゆっくりと流れる……。


09/07 end


Photo
Terceira Marpuffin Terceira Mar
ホテルの部屋から大西洋を臨む。左手にかすかに見えているのがモンテ・ブラジル。本当に海の前だけど、嵐が来たらどうなるの?
アングラ・ド・エロイズpuffin アングラ・ド・エロイズ
展望台へあがる道の途中。
キンタ・ド・マルテーロpuffin キンタ・ド・マルテーロ
ポルトガル式前菜。鶏のアルカトラ。食器類は店のオリジナル。
先読み 先読み 先読み candybox counter