シディ・ブ・サイド
7時起床。毎日規則正しい。今回の旅行で不思議なのは、全く時差ぼけにならなかったこと。毎日疲れて爆睡していたのだろうか。テレビでは、コーランカラオケが流れていた。読み上げる声にあわせてアラビア語の文字の色が変わっていく。あ、声があるので“カラ”オケでは無いか。窓からはチュニスの町が見下ろせる。裏通り側なので、低くて雑然とした建物が多い。コンクリートのビルの上に、必ずと言っていいほど煉瓦造りの掘っ建て小屋のような物が建て増しされている。
朝食はいつもの通りビュッフェスタイル。このホテルは嬉しいことに禁煙席がある。パンが美味しい。焼きたてのクレープも良い。やはり都会のビジネスホテルは洗練されている。
シディ・ブ・サイドへ向けて出発。今日は車がないので移動は電車。ホテルの前の通りを右に600メートルでチュニス・マリン駅に到着する。通りにはカフェが点在し、スーツを着たビジネスマンが新聞を片手にコーヒーを飲んでいる。ここは完全に(テレビで見たことのある)ヨーロッパだ。
電車に乗り、シディ・ブ・サイドを目指す。海の中の一本道が気持ちいい。途中、カルタゴの名前を持つ駅をたくさん通過。もちろん世界遺産のカルタゴだ。かつてローマ帝国と地中海世界を二分していた大国だが、今は別の民族(イスラム系住民)の国になってしまった。こういう場合、国民のアイデンティティは如何なものだろうか。「私たちの国には、こんな素晴らしい歴史があります」と教えられても、それは自分の祖先がなしえたことではなく、戦乱に乗じて乗っ取っただけのこと。2600年に渡り一つの場所に閉じこもり歴史を築いてきた国の民には想像できない。
さて、シディ・ブ・サイドは、いわば郊外の別荘地。海沿いに豪華な家が建ち並ぶ。昔ここに住んでいた金持ちの外国人が「白と青以外の色を使った建物を建ててはいかん」という法律を無理矢理作らせ(この法律は今でも有効らしい)、おかげで地中海に映える独特の景観を持つ町並みが出来た。今日も観光バスが次々と訪れる盛況ぶり。名所旧跡があるわけでもないのにこれだけ賑わうのだから、日本のけばけばしいリゾート地もまねをしてみては如何だろうか。
しかし本当に何もないので小一時間も散歩をすれば一回りできてしまう。旅の最後にチュニジア土産を探すとか、世界最古といわれるカフェでミントティーを飲むとか、特に目的がなければわざわざ来なくても良いでしょう。土産物を物色。チュニジアの風景を描いたタイルを購入。最初1枚30Dだった物が、たいして粘ったわけでもないのに3枚で15Dになった。本格的に交渉すれば何処まで下がるのだろうか。
バルドー博物館へ
電車でチュニス市内に戻る。途中駅で、乗ってきた学生がドアを押さえて閉まらないようにしてしまう。乗り遅れた友達を待っているのかと思っていたら、なんと電車はそのまま発車してしまう。開け放たれたドアから入ってくる風が心地よい。
午後はバルドー博物館へ向かう。チュニス駅からホテル・アフリカに戻り、今度は左手方向へ進むとバルセロナ広場に到着。ここはいくつかの方面に向かうターミナル駅になっているため乗る電車に注意が必要だが、切符売り場で聞けば丁寧に教えてくれた。小さなサンドイッチ屋でテイクアウトしたツナサンドを食べ後−−ちょっとしょっぱいなあ−−早速出発。ゴミゴミとした町中を抜けて電車は走る。
ル・バルドー駅で降り、命がけで道路を横断し、5分程度歩くと立派な建物に着く。「デンデンダイコゥ、デンデンダイコゥ」と−−なぜにチュニジアで、でんでん太鼓??−−声をかけてくる土産物屋をやり過ごし、団体客の間をかいくぐり入場する。
バルドー博物館の目玉は、なんと言ってもチュニジア各地から集めたモザイクタイルのコレクションだ。お疲れ気味の妻のため、他の階は無視してモザイクタイルのフロアーへ直行する。幾何学模様の単純な物から始まり、ギリシャ神話を題材にした躍動感あふれる絵画のような物まで、時代や発掘場所で分けられたたくさんの作品が並ぶ。わずか1平方センチ程度のタイルを敷き詰めて、大広間を埋める作品を作り上げた時間と労力に感嘆するばかりだ。ちなみに英語が読める方は、ロンリープラネットを持参すれば、フロアーの詳細な配置図から解説まで詳しく書かれているので参考になります。
売店で色々と土産物を物色。多少割高かも知れないが、ぼったくられることもないので安心して選べる。レジの若いお兄さんは、フランス語と英語の両方を操り笑顔で話しかけてくる。妻のシャツに書かれていたフランス語の文章−−これって、フランス語だったの?−−英語に訳して教えてくれる。全部で45Dと、けっこうな買い物をしてしまった。
チュニジア市内に戻る。時間が早いので、スーパーマーケットを探す。これが失敗だった。何処の国でも大きな町に行けばカートを押しながら自由に食材が選べるスーパーがあると思ったのが間違い。ガイドブックには、フランス資本の巨大スーパー、カルフールがあると書かれていたので、なんとかなるだろうと思って歩き始めた。
空港からバスで来る途中に見かけたショッピングセンターまで1キロ程度歩く。が、期待した“スーパー”ではなく小さな“ショッピングモール”だった。ホテルまでまたとぼとぼと歩く。信号待ちしていると男性が話しかけてくる。「カルフールのようなスーパーマーケットを探している」と話をするが、どうもマーケットの概念が伝わらない。「マルシェ(市場)のことか?、案内してあげるよ」と言うが、すっかりアラブ人不審に陥っている妻は即座に断る。
妻は歩き疲れたのとこれまでの精神的な疲労が重なったためか、ホテルに戻ると完全に落ち込んでしまい、「もう家に帰りたい」と食事もせずに寝てしまった。確かに今回の旅行は色々失敗だったけど、そこまで言われるとこっちも落ち込む。自分も真空パックご飯とインスタントみそ汁だけで寝てしまった。
10/13 end
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