6時起床、いよいよニューヨークを去る日となってしまった。その前に忘れては行けない、グラマシーパークの散策に出かける。ドアマンに公園の入り口まで付き添ってもらい、帰る時間を告げる。ドアマンは僕らを中へ入れると、また鍵を閉めて去っていく。中に閉じこめられた格好だ。公園内には既に何人かの女性が居て、ウォーキングを楽しんでいる。僕たちはのんびり散策。と言ってもテニスコート3面ほどの小さな公園なのですぐに一周してしまう。
小径にはたくさんのベンチが置いてあり、それぞれにメッセージが刻まれた銘板が埋め込まれている。両親に贈った物、親友に宛てた物など様々であるが、皆この公園を愛している気持ちがあらわれている。そんなベンチの一つに腰掛け、駆け回るリスを眺めながらニューヨークで一番贅沢な時間を過ごす。
約束の時間となり、再びドアマンに迎えに来てもらいホテルに戻る。荷物をまとめてチェックアウト。僕にとってのニューヨークは、ブロードウェイでも五番街でもロックフェラーセンターでもなく、グラマシーパークホテルの静かな時の流れ、ということになるであろう。
タクシーに乗り、30分程度でラガーディア空港に到着。搭乗手続きを済ませ、カフェで食事。カフェモカを注文するが甘過ぎで閉口。
11時過ぎ、バーモントVermont州、バーリントンBurlingtonへ向けてDASH-8は離陸。ニューヨーク・メッツNew York Metsの本拠地、シェイスタジアムShea Stadiumを眼下に見てすぐに北上。大きな揺れはほとんど無かったが、エンジンの振動でマッサージチェアに座っているような感じ。なんだかリラックスできた。
バーリントンは快晴。ハーツHertzのレンタカーを借りる。受付のお姉さんは、ゆっくりとわかりやすい英語で話してくれる。
「モッツァ、626は如何ですか?」
と薦めてくれる。いったい何処の車かわからなかったが、指さされたパンフレットを見て理解できた。この人は「マツダ(MAZDA)」の事をモッツァレラ・チーズの如く、「モッツァ」と読んでいるのだ。マツダさん、頑張って下さい。
車に乗り、一路南下。シェルボーンShelburneの街を目指す。ここにはバーモント名物の一つ、屋根付き橋が保存されているミュージアムがある。屋根付き橋と言えば、映画「マディソン郡の橋The Bridges of Madison County」が有名。しかし、じつは映画の舞台、アイオワ州よりもニュー・イングランド地方の方がはるかに多くの屋根付き橋が残っていて、バーモント州だけでも100以上現存している。
30分ほどで到着。広い公園の中には、かつて川を下りニューヨークとの貿易に使われた巨大な蒸気船や灯台(いずれも原っぱに置いてあります)があったり、古いアメリカの暮らしぶりがわかる建物が保存されている。
そして公園の一角に池が作られ、ちょうど公園の外の州道との間を渡す形にバーモント州でも2番目に大きな屋根付き橋が架けられていた。ただし、鍵の付いた柵があり、州道と自由に行き来することはできない。全長50メートル、2車線の堂々たる橋。写真を撮っている間に柵を開けて何台かの車が通り過ぎた。公園の管理用車両が通行するための道として今でも立派に使われているようだ。
公園を散策。バーモントと聞けば恐らく99%の日本人がイメージするであろう「リンゴと蜂蜜」。蜂蜜は見つからなかったが、小さな実が付いたリンゴの木がたくさんあった。
公園を後にし今回妻が最も楽しみにしている場所、ベン&ジェリーズBEN&JERRY'Sのアイスクリーム工場へ向かう。日本でも最近売り出し中のB&Jは、ここバーモント州が拠点で、ユニークな製品のみならず、ユニークな経営でも話題の会社だ。
バーリントンを経由して1時間半ほどで到着。軽井沢にある清泉寮のような趣で、山あいに小さな工場があり、売店がある。早速工場見学を申し込む。一人2ドル。これくらいただにしろと思ったが、このお金はどこかに寄付されるらしい。
工場見学はまず短編映画の上映から始まる。案内のお姉さんのかけ声とともにギャラリーから「むぅぅぅぅぅぅーーー」の大合唱。アメリカの牛は「もぅぅぅ」ではないのね。映画はベンとジェリーの二人が小さな店を構えたところから、今日の大発展を遂げるまでの様子を描いている。
映画の次は工場見学。ガラス張りの通路から下の作業の様子を眺める。従業員が気軽に手を振ってくれる。一日に2種類のフレーバーを作っているそうだ。
お次はいよいよ試食タイム。今日作られている2種類のアイスクリームが、小さな、本当に小さな(ペットボトルのキャップくらい)容器に入って出てくる。そりゃねえだろ、どうせ外に出たらたくさんアイスや土産物を買わされるんだからもう少し奮発してくれてもいいだろうがよ。と、言いたくなる。
子供向けに少しショーがあり、工場見学は終了。先程のアイスでは物足りないので改めて買ってしまう。やはり戦略か。日本ではなぜか売っていないバニラを食べる。旨い。売店ではB&Jグッズがたくさん売られている。カナダのCOWSの様だ(year1999カナダ旅行編を見てね)。
工場を後にし、今日のお宿、トラップファミリーロッジTrapp Family Lodgeに向かう。この名前を聞けばぴんとくる方も多いと思うが、「サウンド・オブ・ミュージックTHE SOUND OF MUSIC」のモデルとなったトラップ家の子孫(末っ子が現在の管理者らしい)によって経営されている。工場からさらに山あいに入った小さな町、ストウStoweにある。
ストウの町はこれまた軽井沢のような所で、夏の避暑、冬のスキーで成り立っているような所だ。その中でもトラップファミリーはかなりの土地を保有しており、丘一面に広がるロッジ群の他に、自家製のパン工場やプールもある。長期滞在型のようで、映画の上映やコンサートが行われたり、子供のためのキャンププログラムが実施されたりしている。しかしその強力なブランド力をバックにし経営は強気。料金は前払いで、しかも普通の部屋が1泊220ドルもする。ニューヨークのスイートと同じ料金だ。
ロッジに到着した頃には既に太陽は丘の向こうに隠れ、夕暮れが迫っていた。チェックインを済ませポーターに案内された部屋は、「本館」2階の谷に向かって開けた眺めのいいところ。部屋の前は広いテラスになっていて、ベンチでくつろげるようになっている。とりあえず夕食。実は今日は昼飯を食べていない。レストランは予約のお客様のみということで、隣接したカフェへ。外は夕闇。ピアノがあり、年輩の男性がウイスキーを飲みながら気持ちよさそうに弾いている。
食事を終えると何もすることがないし、明日は長距離ドライブなので早めに就寝……したはずが、やはり夜中に目が覚めてしまう。
3時、仕方がないので一人でテラスに出てみた。空気が少し冷たい。満天の星空、天の川が綺麗に見える。これは写真を撮らない手はない。カメラを手にし、そっと部屋を出た。
何枚かの写真を撮り、そろそろ引き上げようかなと思って見上げた空にゆっくりと動く点が見えた。初めて見た、人工衛星だった。流れ星よりもはるかにゆっくりとした速度で、音を立てずに天空を横切っていく。スバル星雲(だと思う)の前を通過し、地平線に消えていった。
07/31 end
|